人事担当に聞く!タレントマネジメントの実際
様々な人事課題に対して、なぜ、なにを、どのように行ったのか、
人事担当者にお話しを伺いました。
「シミュレーション面接」で答えのない問題に立ち向かう力を評価。
東急の採用プロセス改革。
前例のない環境変化に直面しても、常にビジネスチャンスを掴める人材を採用したい。
東急の「シミュレーション面接」導入の取り組みをご紹介します。※本取材は2022年1月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。
初田直美 様
東急株式会社
人材戦略室 人事開発グループ 採用センター 課長
東急株式会社
事業内容 | : | 交通事業、不動産事業、生活サービス事業、 ホテル・リゾート事業、国際事業 等 |
業種 | : | 陸運業、不動産業 |
従業員数 | : | 1,461名(2021年3月31日現在) |
インタビューの要約
採用における課題は、鉄道会社の保守的なイメージから起業家マインドを持った学生との接触が難しかったことと、創造力を評価するような選考手法を持っていなかったこと。学生の新たな側面を評価する手法として、「シミュレーション面接」の導入を決定。
シミュレーション面接とは、その場で考えさせる質問をし、回答の仕方で評価を行うもの。従来手法からの変更に一部懸念の声もあったが、環境変化における新しいチャレンジの一環として協力を仰ぐ。
シミュレーション面接によって、従来の面接では見極めきれなかった考えの広がりや新しいアイデア、「答えのない問題」に取り組む姿勢が評価できた。面接のマンネリ化を防ぎ、面接官からもポジティブな評価。
今後の課題はシミュレーション面接の精緻化と、採用とタレントマネジメントの連携。
このインタビューのテーマ
鉄道会社の保守的なイメージを超えて、ビジネスチャンスを掴む人材を採用したい。
採用に関する課題は、求める人材像にアプローチすることが難しいことでした。当社は鉄道会社という側面ゆえに、安心・安全を志す保守的なイメージがあり、それは正しく一番必要な事ではありますが、事業の幅が広いため、ゼロから事業をクリエイトすることも多数あります。たとえば、コロナ禍で鉄道による人員輸送が減っても、一方で沿線に住んでいる方の滞在時間は増えます。ここで生まれた新たなビジネスチャンスに注目できるような人材が必要なのです。当社は最近「TsugiTsugi(ツギツギ)」という新サービスをリリースしましたが、これは次々とホテルを選んで旅をするように暮らせるというサービスで、若手社員が社内の起業家育成制度を使って立ち上げたものです。当社がもつ多種多様なアセットを連携させて、新しい事業を始めるチャンスが数多くあるため、ぜひそのような起業家マインドを持った学生に当社を知ってほしいと思っています。
もう一つの課題は、こうした事業創造ポテンシャルを持つ人材を採用するため、創造力の高さを評価する選考を行いたいということ。採用後、どのような選考プロセスを経てどのような学生を採用できたかという、振り返りの分析を日本エス・エイチ・エルに委託していますが、従来の選考では創造力の高い方を高く評価しているとはいえませんでした。面接方法や評価方法を刷新し、もっと適切に創造力の高い方を評価できないだろうか。そう模索する中で、浮上したのが「シミュレーション面接」でした。
その場で考えさせることで課題解決力を見る「シミュレーション面接」に挑戦。
シミュレーション面接とは、「その場で考えさせるような質問をあえて行い、その回答の仕方で評価を行う」という面接手法です。困難な課題や答えのない問題に直面した時の考え方や姿勢、説明の仕方によって、創造的な課題解決能力を評価できるという利点があります。回答自体だけでなく、どのようにその回答を導き出したのかというプロセスも重要になります。
シミュレーション面接を導入することを社内に告知した際、面接官からは「今まで通りガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を深堀りしたい」という声もあがりました。しかしガクチカは他の選考で取り上げていたので、今回の選考の目的を明らかにし改めて協力を仰ぎました。コロナ禍で前例のない環境変化が起きる中、柔軟な発想やチャレンジすることの重要性は実感されていたと思いますので、受け入れていただきやすい下地があったと思います。
シミュレーション面接の面接官トレーニングは、日本エス・エイチ・エルに委託しました。特に、シミュレーション面接では回答の深堀りがカギとなりますので、回答に対する質問の仕方や切り口、応募者を緊張させないための留意点などを学びました。
シミュレーション面接で見えた考えの広がり、答えのない問題に取り組む姿勢。
シミュレーション面接のメリットは、従来の手法では引き出しきれなかった人材の強みが、新たに見いだせるようになったことです。回答自体は一般的なものであっても、さらに深堀りをすることで考えに広がりが見えることもありますし、逆に底が見えてしまうこともあります。中には「こんな考え方があるんだ」と驚くこともありますし、創造力を評価するのに大変わかりやすい指標になっていると思います。また、「答えのない問題」に取り組むときの姿勢を見ることができますので、最後まで投げ出さないか、一緒に働きたいと思える人材かという点もクリアに見えてきます。
またこれまでは、面接に慣れている面接官ほど対話がマンネリ化してしまう傾向がありました。しかしシミュレーション面接を導入したことで、予想していなかった回答が飛び出すようになり、面接官も真剣にそれを聞き、深堀りを行うようになりました。面接官からも「面白いし、今まで見られなかった部分が見られる」とポジティブなフィードバックがありました。まだ導入初年度なので、今後は実施時間の再検討や評価指標の精緻化など、さらに面接精度を上げるための取り組みが必要だと思っています。
今後の課題は採用とタレントマネジメントを連携し、
多様な人材が活躍できる組織を作ること。
今後の課題は、AIなどのHR Techの活用や、選考ステップごとの多角的な評価、また入社時のアセスメントデータをタレントマネジメントデータとして連携し、様々な人材が適性を活かして活躍できる配置に活かすことなどです。中途採用の増加、リモートワークの導入などに伴い、人事が色々な角度から人材を把握する必要性があると考えています。どのタイミングで入社した社員も適切かつ公平に評価できる情報をもって、人材配置に活かせるとよいと個人的には考えています。
日本エス・エイチ・エルのアセスメントのいいところは、個人の違いがデータ上にしっかり表れるところ。また、データをどう読み解くか、他社と比べるとどうか、どのように活用するかなど、様々な方面からアドバイスをいただけるので、とても勉強になっています。人事のメンバーもよりデータの扱いに習熟していきたいと思っていますので、引き続きサポートしていただけると嬉しいです。
担当コンサルタントから
藤田夏乃子
日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント