人事担当に聞く!タレントマネジメントの実際
様々な人事課題に対して、なぜ、なにを、どのように行ったのか、
人事担当者にお話しを伺いました。
学生のWill(意志)を尊重し、「選び、選ばれる関係」を目指す、
住友商事の新卒採用。
応募者のキャリア観の変化に合わせて、配属先確約型のWILL選考を採り入れた住友商事。
同時に自社をよりよく理解してもらうための様々な取り組みを行いました。※本取材は2024年7月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。
佐々木 亮 様
住友商事株式会社
HR企画戦略部 フューチャータレントアクイジションチーム チーム長
住友商事株式会社
事業内容 | : | 全世界に展開するグローバルネットワークとさまざまな産業分野における顧客・パートナーとの信頼関係をベースに、多様な商品・サービスの販売、輸出入および三国間取引、さらには国内外における事業投資など、総合力を生かした多角的な事業活動を展開。 |
業種 | : | 総合商社 |
従業員数 | : | 5,152人(連結ベース79,692人)※2024年3月31日時点 |
インタビューの要約
学生の立場に立った広報施策の実行と初期配属先を確約する選考形式で多様な応募者の惹き付けをはかった。
面接を構造化し、面接官にはロールプレイを含むトレーニングを実施。面接受験者から面接体験アンケート結果を回収し、面接のさらなる質の向上に取り組む。
今後も、採用広報・選考・オンボーディングにおいて、十分に自社の魅力を伝えられるように試行錯誤と挑戦を続ける。科学的なトラッキングも実施したい。
このインタビューのテーマ
ポテンシャルの高い人財を獲得し、その力をアンロックする
住友商事は2019年に創立100周年を迎えました。そのタイミングでリリースされたコーポレートメッセージが「Enriching lives and the world」です。住友商事グループの社員一人ひとりがこの言葉を抱きながら、世界中で日々業務に励んでいます。
そして、当社の人財戦略では、“Unlock Your Power“という言葉を掲げています。変化が激しく複雑で予測のつかないビジネス環境下において、多様な知識・経験を持つ社員一人ひとりが、これまで以上にエンパワーされ、Enriching lives and the worldの実現に向けて夢中になる職場で、新たなビジネス創出や課題解決にあたることを追求しています。
このような考え方の下、新卒採用とキャリア採用のベストミックスで採用活動を行っています。数年前までは新規採用の大半が新卒採用でしたが、ここ数年でキャリア採用者数もかなり増加してきています。
新卒、キャリアに関わらず、当社の未来を支える能力、ポテンシャルの高い挑戦意欲に溢れる人財に入ってきていただき、それぞれが持っているパワーをアンロックし、最大化する。そういうことをこれから更に加速していきたい、と考えています。
応募者のニーズをとらえた施策を実行、「選び、選ばれる関係」を目指す
さて、ここからは当社が新卒採用において抱えている課題と打ち手についてご紹介させていただきます。
まず、我々として抱えている課題感としては、「学生のキャリア観が大きく変化してきていること」、「ミスマッチを減らすこと」、「女性管理職比率向上させること(2030年に20%が目標)」、「自社の実態とイメージの乖離を払しょくすること」、「新たな事業を創っていける人財を獲得すること」等があります。
このような課題に対し、私たちの求める人財がもつニーズに対して何ができるかを考えてスピーディに実行し、結果として応募者の方と当社が「選び、選ばれる関係」になることを目指してきました。ここでは具体的に行った取り組みを3つご紹介します。
- Sumisho Career Seminar
主に女性の求職者にターゲットを絞ったSumisho Career Seminarというセミナーを実施しました。Web形式のセミナーで、女性の人事執行役員と若手社員がパネルディスカッション形式で仕事、働き方、キャリア、プライベートについてざっくばらんに語ってもらうイベントです。一部の学生にとって、総合商社業界は、「ハードワーキング」「体育会」「男社会」というような古いイメージがまだ残っており、ハードルが高いと感じてしまう方が少なくないようです。そのようなイメージを払しょくしたい!そして、もっと女子学生にもご応募いただきたい、という想いから企画しました。セミナー当日は、非常にカジュアルな雰囲気でトークが展開され、当社の魅力や女性社員が活躍しているイメージがよく伝わったようで、セミナー後のアンケート結果を見ても、大変好評な企画になりました。 - Sumisho Radio
学業や課外活動、アルバイト等、大変お忙しい日々を過ごしておられる学生の皆さんは、所謂「タイパ」を意識して効率的に就職活動をされています。そこで、我々としても、限られた時間の中でも当社のことを効率的に上手く伝えることができないかと考え、Sumisho Radioというイベントを企画しました。こちらもWeb形式のセミナーで、学生の隙間時間であろうランチタイムや放課後の時間帯を狙って開催しました。セミナーは、若手採用担当者数名が掛け合いをしながら、セミナー中にリスナー(学生)から投稿される質問にリアルタイムで回答するというイベントです。リスナーは、必ずしも画面を見る必要はありません。隙間時間に耳だけ傾けていただくことで、当社のこと、就職活動の進め方、キャリアに対する考え方等の情報を効率よく入手いただけたのではないかと思います。こちらの企画も非常に評判が良く、視聴者は平均で毎回300人程度、その中で数多くの質問が寄せられました。結果的に複数の内定者からもSumisho Radioを視聴していた、という声を聞きましたし、良い企画になったと考えています。
なお、この企画は、当時入社一年目だった採用担当者が提案してくれたものです。やはり、「若い人の気持ちがわかるのは若い人だな」とあらためて実感する機会となりました。
- WILL選考の導入
冒頭でも少し触れましたが、昨今、学生のキャリア観や会社選びの基準は変化してきていると感じます。私は十数年前も当社で新卒採用を担当していたのですが、その頃の当社への学生の志望動機の多くが「グローバルな環境で働きたい」「スケールの大きな事業に携わりたい」「経営者になりたい」といったものでした。一方で近年は、「入社して、具体的にどのような仕事をしたいか」が明確な方が増えてきています。当社でも、一部の学生からは「入社後、自分の希望とは異なる部署に配属されるのではないか」と思われ、所謂「配属リスク」を危惧して、最終的に他社を選ばれてしまうということはこれまで少なからずありました。
そこで、25卒向けの新卒採用より、学生の意志(Will)を尊重した形での、配属先決め形式の採用選考方式である「WILL選考」を導入しました。現場の理解や選考運営の複雑化等、様々な困難はありましたが、結果としてこれまで十分にリーチできていなかった応募者層(理系大学院生等)にも多くご応募いただくことができ、当社の新卒採用活動にも非常にポジティブなインパクトをもたらしてくれたと実感しています。今後の課題としては、募集部署それぞれの募集内容について、情報提供をさらに充実させることだと考えています。25卒のWILL選考では、応募人数は部署によって濃淡があり、イメージが先行して魅力を伝えきれていないと感じる面がありました。
面接の構造化と応募者アンケートで質の向上を目指す
「面接の質の向上」に向けた取り組みについても少し紹介させていただきます。25卒新卒採用では面接官への案内について一部内容の変更を行いました。当社では今まで、「総合商社で活躍してくれるポテンシャルを持った人財」を選んでもらうよう面接官には案内していました。多様な人財に入ってきていただきたい当社にとって、以前のガイドも決して悪かったとは思いませんが、評価基準が曖昧であるという課題感がありました。そこで、25卒からは評価軸を明確に定め、面接の進め方のガイドをより具体的にしました。所謂、面接の構造化です。また、面接官予定者については原則全員に事前の面接官トレーニングを受けてもらっているのですが、そのトレーニングの中で、ロールプレイを導入、その時間を長く取る等の変更も行いました。
加えて、新たに選考受験者向けの面接体験アンケートを導入しました。面接後すぐのタイミングで、第三者機関から面接を受けてくださった学生へアンケートを発信、無記名で答えていただくもので、面接の雰囲気等に関する質問が含まれています。結果はまだ分析中ではありますが、当社の面接における改善すべきポイントのようなものも見えてきている気がしますので、この結果を今後の面接官へのガイド等にも活かしていければと考えています。
応募者の皆さんは貴重な学生生活の一部を使って住友商事に会いに来てくださっていますので、当社での面接の時間が有意義な時間となってもらえればと強く思います。面接の質の向上に向けた取り組みは、引き続き積極的にチャレンジしていきます。
科学的なトラッキングや分析でさらなる改善に挑む
社会の変化とともに、新卒採用を取り巻く環境もどんどん変化していますので、今後もトライアンドエラーを繰り返しながら、様々なチャレンジを積極的にしていきたいと思っています。
採用広報活動と選考活動の領域では、当社のビジネス、仕事、キャリアについて、今よりもっと学生の皆さんに理解いただけるような取り組みを行うこと、当社ならではの独自性をより効果的に伝え、求職者を惹きつけるブランディングを展開すること、そして、行った活動の成果を可能な限り定量化してPDCAを回していきたいと考えています。なお、ちょうど今月(2024年7月)にインスタグラムの公式アカウントを開設しました。我々の新たなチャレンジです。こちらでも採用関連の情報を積極的に発信していきます。
オンボーディングの領域では、内々定から入社までの間の情報提供をさらに充実させて、内定者にとって当社で働くことの解像度を高めてもらえるような取り組みを検討しています。
また、今後の大きな課題の1つとして、これまで蓄積しているOPQデータの活用があります。今は採用選考時の参考資料のひとつという位置づけですが、採用時のデータが入社後にどうなっているか科学的にトラッキングする、初期配属のマッチングをより合理的に行う、要員配置計画の参考にするなど、様々な場面で活用できるのではないかと考えています。実際にどのようなことができるかエス・エイチ・エル様と相談しながら模索していきたいです。
エス・エイチ・エル様の当社担当の清水様は非常に真摯で信頼できる人だと感じています。以前、選考でとある相談をした際に、率直かつ丁寧なアドバイスをしてくださったことがとても印象的でした。良いことも悪いことも当社のために伝えてくれるありがたい存在です。
担当コンサルタントから
清水 智昭
日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント