人事担当に聞く!タレントマネジメントの実際
様々な人事課題に対して、なぜ、なにを、どのように行ったのか、
人事担当者にお話しを伺いました。
工場設備保全員の安全管理にアセスメントを活用。日産自動車横浜工場の挑戦。
工場設備の保全作業で発生しうる災害。
保全員の行動傾向から潜在的なリスクを予測し、マネジメントや指導に活用している事例をご紹介します。※本取材は2022年4月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。
淡路秀夫 様
日産自動車株式会社
横浜工場 第一製造部 エンジン課 安全健康管理係長
日産自動車株式会社
事業内容 | : | 自動車の製造、販売および関連事業 |
業種 | : | 自動車製造業 |
従業員数 | : | 22,825名(単独) |
インタビューの要約
工場設備の保全作業で発生する災害について、保全員の安全にかかわる行動傾向を特定するためにアセスメントを活用することを検討。
保全員にパーソナリティ検査OPQを実施し、実際の災害事例と当事者のパーソナリティを照らし合わせたところ、結果と行動事例が一致。潜在的に事故につながる可能性のある行動傾向を抽出することができた。
保全員のアセスメントの結果を、現場の工長(監督者)に共有。潜在的なリスクを持つ行動傾向について理解の上、日々の指導に活かしてもらっている。
保全作業は共同で行われることから、今後はチーム編成にもアセスメントデータを応用したい。特に小集団における意思決定に、メンバーの組み合わせが与える影響を検討したい。
このインタビューのテーマ
工場設備の保全作業で発生しうる災害。
保全員の安全を守るためにアセスメントを活用したい。
私が勤務する日産自動車横浜工場は、エンジン博物館・歴史資料館を備えた歴史ある工場で、当社の発祥の地でもあります。「全員の高い安全意識で、すべての災害を防止する」を基本理念に、エンジン・モーター・アクスル・サスペンションを主に生産しています。私は設備保全を担当する課に所属し、生産設備のメンテナンスを行う保全員の安全・衛生・健康の確保に努めています。
我々にとって、保全員の安全確保は重要課題となっています。設備の保全作業は、多くが突発的に発生する非定常作業であり、「故障が多岐にわたり」「経験が少ない中で」「早期復旧」のための修理を行わなければならず、その際の安全確保には個人の資質が大きく影響します。これまでは当社独自に開発した個人安全資質評価表を用いて個人の弱点を把握し、個別の安全活動目標を設定の上フォローアップを行う活動に取り組んできました。
しかしながら、「潜在的な危険敢行性」に起因するリスクを伴う危険作業は後を絶たず、これまでの評価表ではとらえられない個人の危険に対する資質を把握する必要性が生じました。危険敢行性とは、「危険を感じ取っていても敢えてその危険を避けようとせず、危険事態に入り込んでいく性質」を指します。このような特徴をとらえることができるアセスメントツールを模索し、当社人事部に相談したところ、日本エス・エイチ・エルを紹介されました。
保全員にパーソナリティ検査を実施。
事故事例と当事者の特徴を照らし合わせると、背景が見えてきた。
日本エス・エイチ・エルのパーソナリティ検査OPQを課員全員に実施し、担当コンサルタントに相談したところ、「潜在的な危険敢行性」を示す特徴を得点で表すことができました。実際に、これまで災害要因として挙げられた行動事例と特徴を重ね合わせた結果、行動事例と得点が合致した結果を得ることができました。
また、複数の災害事例と当事者のパーソナリティから、事故につながりうる行動傾向の知見を見出すケーススタディも実施したところ、危険敢行性とは別に、「違和感を覚えても口に出せない、助けを求められない」というような特徴も、状況によっては事故につながるケースがありました。状況と個人の特徴を照らしあわせることで、事故の背景がより明確にわかるようになり、適切な指導に繋げられるようになりました。
災害当事者と似た特徴を持つメンバーを抽出すると、同様のリスクを抱えると思われる集団を特定することができます。個人が持つ、定量化できない「あやうさ」を、明確に示してくれるのがパーソナリティ検査だと感じます。
余裕がない時にとっさの行動に表れるのが、パーソナリティ。
アセスメント結果を監督者に共有し、リスクマネジメントを行う。
現在は、パーソナリティのデータから様々な因子を組み合わせ、危険行動につながる特徴をもつ可能性の高い方を絞り込み、監督者と共有し、マネジメントや教育に活用しています。心理学分野の専門性がないため時間をかけながらですが、日本エス・エイチ・エルのマニュアルと担当コンサルタントのアドバイスを頼りに進めています。
まだまだ手探りの面もありますが、過去発生した災害事例と個人の行動特性を照らし合わせることで、何故あのような行動をとってしまったのか、という深堀りができるようになりました。災害発生時は当事者も反省しますが、反省だけでは次にはつながらないことが多いです。「このような性格であるがゆえに、このような状況でこのような判断をしてしまった」という背景まで理解することで、監督者からも適切な声掛けや指導ができるのではないかと思っています。特に、余裕がない時や急いでいる時、その人が持つ傾向が顕著に表れます。アセスメントはこうした潜在的なリスクを把握し、適切なマネジメントに役立てることができるものだと思います。
アセスメントはチーム編成にも応用。
今後は小集団におけるリスク予測にアセスメントを活用したい。
アセスメントの結果は、チーム体制変更時にも活用しています。チームメンバーのコンピテンシーポテンシャルデータを分析することで、各チーム全体としての強みや弱みをとらえることができるようになり、体制変更に伴う各チームの能力変化も把握することができるようになりました。
他事業所保全課においても同様の問題意識がありますので、全事業所の保全安全係長が定期的に集まる会議の場で本事例紹介を行っています。今後は、保全作業が基本的に共同作業で行われることから、小集団における危険メカニズムを分析し、作業者の組み合わせに関するリスク分析についても活用したいと思っています。最終的なねらいは、個人の組み合わせによりチームのパフォーマンスを向上させ、かつ安全に作業できる小集団を意図的に編成できることです。
人事系のコンサルティングを利用するのは初めてでしたが、日本エス・エイチ・エルはコストが手頃であることに加え、担当コンサルタントが包み隠さず丁寧な説明をしてくださるのがありがたかったです。今後こうした安全に関する事例がもっと出てくるといいですね。
担当コンサルタントから
清水智昭
日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング2課 主任