人事担当に聞く!タレントマネジメントの実際
様々な人事課題に対して、なぜ、なにを、どのように行ったのか、
人事担当者にお話しを伺いました。
「育成する昇格プログラム」と「ライセンス制度」を取り入れた、
Jストリームのマネジャー育成。
動画配信サービスへのニーズ急上昇を受け、ビジネスチャンスに対応するため人事制度もアップデート。
Jストリームのマネジャー育成の取り組みをご紹介します。※本取材は2021年8月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。
田中 潤 様
株式会社Jストリーム
執行役員 管理本部 副本部長兼人事部長
株式会社Jストリーム
事業内容 | : | (1)ネットワークシステムにおける、動画データ及び各種情報の提供サービス業(2)ネットワークシステムを利用した会員情報管理、商取引、決済処理に関する受託業(3)デジタルコンテンツ、出版物の企画・制作・販売及び賃貸業(4)ネットワークシステムに関するハードウェア・ソフトウェア・付帯サービスの企画、開発、運営、制作、販売、輸出入・賃貸及び代理店業(5)広告・宣伝に関する企画・制作及び代理店業(6)1から5に関連するコンサルテーション、調査、分析、研究等 |
業種 | : | 情報通信業 |
従業員数 | : | 単体313名 グループ594名(2021年3月末時点) |
インタビューの要約
コロナ禍において動画サービスへのニーズが急上昇。大きなビジネスチャンスと様々な環境変化に備えるため、人事制度全般のアップデートと人材育成の体系化を図る。
マネジャー育成の一環として、半年間のマネジャー教育を組み込んだ「育成する昇格プログラム」と、組織マネジャーのライセンス制度を導入。
研修は、リモートワークにおける人間関係構築の場も兼ねる。月1回、自由参加型の交流型研修を実施。
今後は、各本部が推進する独自の人材育成施策への支援と、社員のキャリア支援にも取り組んでいきたい。
このインタビューのテーマ
動画配信事業に到来した大きなビジネスチャンス。
会社が次のステージに移るべき時期がきた。
私のキャリアは大手食品メーカーでの業務用原料の営業職からはじまりました。当時は営業が天職だと思っていましたが、29歳で人事に異動。人事の仕事は、企業をまたいだ共通の課題意識について情報交換し、互いに学び合える点が面白く、採用から人事制度設計まで様々な人事業務を担いました。その後営業子会社の役員を経験したものの、人事としてのキャリアに戻ることを求めて46歳で転職。2社目で10年ほど人事責任者を務め、縁あって今の会社に入社しました。
このコロナ禍で、我々の予想を超えて、急速に動画サービスが活用されるようになりました。Jストリームにとって大きなビジネスチャンスですが、同時に受注キャパシティの問題や、コンペティターの台頭といった脅威も発生します。会社全体が変わらないと、今後の大きな変化に対応できません。ステージが変わるときが訪れたのです。会社が変わる際には、経営が明確に方向性を示し、様々なサブシステムがそれに対応していく必要がありますが、人事は経営における極めて重要なサブシステムです。人事が半歩先を意識しながら、経営と一緒に変化すべき大事な時期だと思いました。
長らく抜本的には手を入れられていなかった人事制度全般のアップデートに着手しました。また、体系的な人材育成制度を入れ、最初の柱としてマネジャー育成のテコ入れをしました。マネジャーが人を育てるからです。これまでマネジャー向けに一律の研修は行っていませんでしたが、知識やスキルといった武器を提供せずに、ただ「頑張れ」では成り立ちません。マネジャーの仕事はどんどん複雑化する傾向にあるので、彼ら・彼女らに適切な武器を提供するのは会社の義務です。
マネジャーの「無免許運転」は危険。
「育成する昇格プログラム」と併せ、マネジャーのライセンス制度を導入。
マネジャーにあたる等級に昇格するためには、各本部の申請に対し、業績を参照し、執行役員以上が全員で審議して決議します。丁寧なプロセスですが、データやロジックは特にありませんでした。そこで今回、マネジャー候補層の育成の仕組み化をしました。
組織を持たないスペシャリストを含むすべてのマネジャーについて、昇格タイミングの半年前に各本部に候補者の申請をいただきます。その後、候補者には通知をし、半年間マネジャーに昇格するための育成プログラムを提供します。その結果、最終的に審査して、昇格する人を決議します。選別する昇格プログラムではなく、「育成する昇格プログラム」です。候補者を申請する際に、各上司はその人の課題を提出します。それも幹部が共有して、育成を見守ります。育成プログラムは、外部の講座への参加、アセスメント試験、人事部の主催する研修への参加などで、研修でのパフォーマンスを参考にして最終的に審査が行われます。
次に、組織を持つマネジャーに対してはマネジャーのライセンス制度の導入を行いました。組織をマネジメントするには、プレーヤーの業務とは違う能力が必要です。マネジメントについて学んだ人のみがライセンスを取得でき、部課長になれます。初年度の今年は既存の全マネージャーに対して実施しましたが、具体的には、①チームを動かすということ、②一対一のコミュニケーション、③仕事の生産性向上の3つを対象として、研修を行います。ライセンスは3年更新にして、3年後にまた異なる研修を受けていただきます。当然、新しくマネジャーになる人も、研修を受けていただく必要があります。管理職の「無免許運転」は危ないですからね。あわせて、部下評価をするための研修も、①目標設定②中間面談③評価の仕方④フィードバックの4段階に分けて行っています。
リモートワークでのコミュニケーションの希薄化を補うのも、研修の役割。
「楽しかった」と思える研修が、人の学びを促進する。
近年採用数を増やしており、現在コロナ禍以降に入社した社員が全体の2,3割を占めます。彼ら・彼女らにヒアリングをすると、部署の人や業務の関係する人とはオンライン会議で接点が持てるが、その他の人間関係が広がりにくいとのこと。確かに、従来のように出社時にたまたま出会うとか、飲み会で一緒になるといった機会は生まれにくくなりました。既存社員同士は関係性を維持できるが、新しく入社した方が人間関係を構築するための対策は必要です。しかし、とってつけたようなイベントを開催しても仕方がない。我々は、研修を人間構築の場にしようと考えました。
そこで、マネジャーに特化した研修の他、誰でも手を上げれば参加できるような研修を毎月行うようにしました。基本的に交流型の研修ですが、雑談に終始してはもったいないので、参加しやすく興味を集めやすいテーマを毎回決めて、半分くらいの時間は皆でディスカッションするような構成にしています。たとえば、直近ではストレスマネジメントをテーマとした研修を行いました。参加してくれたある管理職の方は、「人の喜びは学びと交流ですね」と感想をくれました。学びが喜びになれば学習が自走しますので、人事部としても大変喜ばしいことだと思います。
気を付けている点は、非常に多忙な中、時間を割いて参加してくれる社員の期待を裏切らない研修にすること。特に、研修は「楽しかった」と思えるものであることをモットーとしています。楽しみながら前のめりに参加をするほうが、学びがあります。人事部でファシリテーションを行う場合も、それを意識しています。
今後は本部独自の人材育成への支援と、社員のキャリア支援に取り組みたい。
今後ですが、具体的なところでは研修の効果検証を行う必要があると思っています。現状ではアンケートなどで反応を見ていますが、今後は一定の規模で様々なサーベイを行い、人材育成にデータを活用していくことも検討したいと思っています。日本エス・エイチ・エルは採用での支援が中心ですが、何かアイデアがあればぜひご提案いただきたいです。
人材育成の分野で今後行いたいことは、各本部内の独自の人材育成の支援。人事部は、ベーシックなスキル・態度の教育を中心に担っていきます。業務直結のスキルに関しては、本部内で教育プロジェクトを立ち上げているところもありますので、各本部が独自性をもって人材育成を行うために、人事として情報提供などを通じて支援したいと思っています。
最後は、社員のキャリアの支援。私自身も関心の深いテーマですし、社内のニーズもあります。メンバーからのキャリア相談は、個別性が強くマネジャーも苦労する傾向があります。そこに対して、人事部として何か取り組みをしていきたいなと思っています。
担当コンサルタントから
深津 寛
日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント