【コラム】人事コンサルタントの視点
さまざまなタレントマネジメント課題に関して、
日本エス・エイチ・エルのHRコンサルタントがコラムを執筆しています。
ゲーミフィケーションとゲームベースアセスメント(前編)
はじめに
私が当社に入社した90年代のはじめは、テストと言えば紙と鉛筆で受検するものでした。2000年に当社が日本初のWEB採用テストのサービスを開始し、この20年間でアセスメントは効率性を向上させました。そして、新たな価値として候補者体験(キャンディデイト・エクスペリエンス)への関心が高まっています。優れた候補者体験は、候補者の入社意欲を高め、新入社員の戦力化を早め、不合格者へ好印象を持たせることで企業ブランドの向上に貢献します。
候補者体験を向上させるために近年話題となっているのが、ゲーミフィケーションとゲームベースアセスメントです。本コラムはゲーミフィケーションとゲームベースアセスメントをSHLグループの白書「Gamification and Game based assessment」に基づいてご紹介します。
ゲーミフィケーションの起源
はじめに、ゲーミフィケーションとシリアスゲームについて説明します。
ゲーミフィケーションは、ゲームデザイナーのニック・ぺリングが2002年に作った言葉です。広義には「ゲームベースのメカニクス、美学、ゲーム思考を用いて、人々を惹きつけ、行動を動機付け、学習を促進し、問題を解決すること」と定義されています(Kapp, 2013)。
シリアスゲームは1960年代から存在します。1980年代には、アメリカ軍の戦車兵の訓練に「ブラッドレー・タンカー」が開発されました(Atari, 1981)。このゲームの目的は、戦争で効果的に働けるかどうかを判断することでした。シリアスゲームは娯楽、喜び、楽しみを主目的としないゲームと定義されていますが、ゲームの根本的な娯楽の側面がユーザー体験を高める可能性があると考えられています。シリアスゲームはトレーニング、教育、評価などの用途に利用されています。
要約すると、目標達成のためにゲームシステム全体を利用しているのがシリアスゲームであり、人を楽しませ、没頭させるためにゲーム要素を用いることがゲーミフィケーションです。例えば、既存の接客テストに、ストーリー、アイテムなどのゲーム要素を追加すれば、ゲーミフィケーションを用いたことになります。
シリアスゲームとゲーミフィケーションはどちらもゲームにルーツがありますが、価値、投資対効果、受検者の反応、測定の厳密性を担保する方法、構成概念の測定にどのように影響を与えるかが異なります。
この後、ゲーミフィケーションとシリアスゲーム(ゲームベースアセスメント)ついて説明し、SHLがゲーミフィケーションとゲームベースアセスメントを自社サービスに取り入れていく際に、どのようにこれらを評価したかについて、ROI、受検者のエンゲージメントと反応、妥当性、悪影響について説明します。
ゲーミフィケーションの分類
ゲーミフィケーションは定義も応用も幅広い概念です。この10年間でゲーミフィケーション要素を分類するための多くの研究がなされてきましたが、普遍的な分類法はありません。一例として、戸田ら(2019)が行ったゲーミフィケーションを5つの基本要素に分類する方法を紹介します。
5つの基本要素
1.パフォーマンス
プレーヤーにどの程度うまくいっているか、進んでいるかを知らせること。アクティビティで特定のタスクを実行すると、トロフィーやバッジが与えられ、進捗状況を知らせるレベルやポイントなどのインジケータが表示されます。または途中や終了後に結果が知らされます。
SHLのパーソナリティ検査OPQでは、回答に時間がかかり過ぎたり早すぎたりするとポップアップが表示され、注意が促されます。
2.エコロジカル
アクティビティ内の環境に偶然の要素を取り入れること。その他には時間を制限したり、経路を選択させたりすることもこの要素に含まれます。アクティビティをコントロールできる幅に関連する要素です。
SHLのコンタクトセンター・シミュレーション(日本未発売の接客アセスメント)では、特定の目標を達成するために、複数のシミュレーション・ツールを選択することが可能です。
3.ソーシャル
自分のパフォーマンスを他の人に共有できること。個人の順位を示すリーダーボードを表示したり、チームごとの活動を表示したりします。獲得したバッジやランク、タイトル等で自分のパフォーマンスを示します。
4.パーソナル
アクティビティに意味を見出し、やる気を引き出すこと。繰り返し行われる行動には目新しさが必要です。アクティビティを選択式にして、プレーヤーにいくつ参加するか、どのように進めるかといった選択肢を与える方法もあります。プレーヤーとアクティビティを密接に結びつけるためのサウンド、アニメーション、バイブレーションなどのインターフェースもこの要素も含まれます。
SHLのVerify Interactiveは、受検者の回答する方法を複数用意しています。スマホやタブレットのタッチスクリーン、PCのマウスを使ったドラッグ&ドロップ機能、矢印ボタンを使った回答入力などのインターフェースを使うことができます。
5.フィクション
アクティビティにストーリー性を持たせること。このストーリー性は空想的なものであったり、職務に関連するものであったりします。
SHLのコンタクトセンター・シミュレーション(日本未発売の接客アセスメント)では、受検者は混乱した顧客から怒った顧客まで、さまざまな架空の顧客と関わり、適切に対応するよう求められます。
ゲーミフィケーションの価値
ゲーミフィケーションアセスメントが従来のアセスメントよりも候補者のエンゲージメントを高めると企業は期待していますが、そんなに単純ではありません。人材選抜におけるゲーミフィケーション研究は新しく、まだ多くの疑問が残っています。
ROI(投資収益率)
ゲーミフィケーションは、ゲーム要素の数や種類をうまく抑えれば比較的安価に導入できます。当然ですが、コストと効果はどのような要素をどれだけ選択するかによって決まります。企業は導入に際して明確な目標を持ち、コストと効果を検討する必要があります。研究者はシリアスゲーム(ゲームベースアセスメント)を一から開発するよりも、既存のアセスメントにゲーム要素を加える方が、高い投資対効果が得られると指摘しています。
候補者のエンゲージメント
企業にとって候補者が真剣に選考に臨むことは重要です。ゲーミフィケーションが候補者のエンゲージメントに与える影響に関する学術的な研究は増えてきていますが、ゲーミフィケーションが候補者のエンゲージメントやモチベーションが高めると結論づけるまでにはいたっていません。
ある研究では、帰納的推論テストにおいて従来テストとゲーミフィケーションテスト(3Dアニメーション、没入型ストーリー、即時フィードバック、ドラッグ&ドロップによる対話を追加したもの)を比較したところ、テストの得点の違いは見られず、ゲーミフィケーションテストの受検者は、従来テストの受検者よりもテストに対するモチベーションが低いという結果になりました。ゲーミフィケーションテストの受検者は集中力が低く、不安を感じていたため、ゲーミフィケーションは候補者体験を損なう可能性があることが示されました(Geimer, et al, 2015)。研究者らは、選考評価を受ける際に否定的なフィードバックを与えることは、不安を増大させ、試験で自分のスキルを発揮する機会があるという受検者の認識を低下させ、受検者のモチベーションを低下させる可能性があると結論づけています。
新しいアセスメント方法を導入する際には、受検者の反応を注意深く考慮する必要があります。研究によると特定のゲーミフィケーション要素は、受検者の特定の心理的ニーズを満たすことでエンゲージメントに影響を与える(Suh, et al, 2018)ため、アセスメントの目的に合ったゲーミフィケーション要素を選択することに注意を払う必要があります。
本コラム前編では、ゲーミフィケーションについてご紹介しました。次回中編では、ゲーミフィケーションに対する受検者の反応と、アセスメントの妥当性における影響についてご説明いたします。
(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)
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