【コラム】人事コンサルタントの視点
さまざまなタレントマネジメント課題に関して、
日本エス・エイチ・エルのHRコンサルタントがコラムを執筆しています。
データ分析における主観性と客観性 ~シンプソンのパラドックスとデータ・インフォームド~
1. 客観的なデータ分析の重要性
本サイトでもご紹介している通り、昨今では多くの企業で社員データを取得し、それを各施策に活かす為データ分析等を実施しています。その背景には、各人事戦略を練る際の客観的な指標として、いわゆる「データ・ドリブン」な人材マネジメントが重視されるようになってきていることが挙げられます。
「データ・ドリブンな意思決定」(以下、DDDM [Data Driven Decision Making]とします。)が用いられる際のメリットとしては主に下記3点があります。
・網羅性による説得力
・新しい事実の発見
・主観に左右されない
事実、DDDMは様々な施策を検討する際に非常に有益な情報をもたらし、迅速な意思決定から企業の業績向上に貢献します。実際に弊社顧客の中でも、ハイパフォーマー分析で明らかになった要件を社内選抜に反映させたことで、その前の選抜社員よりも一人当たりの年間売上額が約30ポイント上昇した例があります。
ただ、こうした企業のトレンドともなっているDDDMですが、データ分析において気を付けなければならない点があります。
2. データ分析には「分析者の主観」が入る
上図は「シンプソンのパラドックス」のイメージです。シンプソンのパラドックスとは、グループ内で見られる相関が全体としても成り立つだろうという直感的な推測が、結果として真逆の結論を導いてしまう現象のことを言います。なぜ上図のような、一見予想とは反する結果が生じるのでしょうか。それは各課各支店の人数構成の違いによるものです。(詳細は、https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2103/10/news030.htmlをご参照ください)
データ分析に基づいて結論を導く際には、「どのような指標(主観的な視点)」が用いられているのか、抜け落ちている視点がないか、慎重に判断する必要があります。重要なのは、客観的に思える分析には「分析者の主観が入る」という点を忘れないことです。上図の例であれば、人数構成を加えるのかどうか、他の属性(地域差や販売先企業数、人口密度等)を分析指標として加えるかどうかを改めて検討すべきです。これらを決めるのは分析者であり、この主観的判断によって結論が大きく異なってしまう点については十分に留意すべきです。
3. データ・ドリブンとデータ・インフォームド
DDDMは非常に強力な意思決定プロセスであることは疑いようがありませんが、既述のことからも、データを妄信するということは危険であるといえます。データは分析者の主観から完全に自由なわけではなく、ある現象の一側面を切り取ったものに過ぎない可能性があるためです。
近年では、データをあくまで一つの情報として活用し主観性(経験や勘など)も伴って結論を導き出す「データ・インフォームドな意思決定」(DIDM[Data Informed Decision Making])が更なる高次元での判断を実現させるといわれています。
DDDMはそうした曖昧な主観性を取り除く意義がありますが、導かれた結果を絶対的な真実であると認識することは、誤った方針を生み出す可能性があります。データによって導き出された結果に主観的解釈による意味づけを与え、人主体の意思決定における一材料としてデータを用いるという考え方が、現在求められているようです。
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