【コラム】人事コンサルタントの視点
さまざまなタレントマネジメント課題に関して、
日本エス・エイチ・エルのHRコンサルタントがコラムを執筆しています。
テレワーク下で変わる管理職のコミュニケーション
2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大という思いもよらない理由にて、働き方改革の一つであったテレワーク導入は急速に進みました。しかし、直接メンバーを指揮する立場にある管理職の方々は、部下とのコミュニケーションの壁に直面したのではないでしょうか。テレワーク導入によって「必要な時に業務指示を出したり、指導をしたりしづらい」「チームビルディングができない」との声が挙がっています(リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所, 2020年4月)。テレワークへの急速な移行は、マネジャーの適性や素養に、どのような影響を与えたのでしょうか。
「ハイコンテクスト文化」日本におけるコンテクストの消失
そもそも、日本の社会は文化人類学でいうところの「ハイコンテクスト文化」と呼ばれるコミュニケーション形態を維持してきました。ハイコンテクスト文化とは、メンバー同士の背景や文脈(コンテクスト)を手掛かりとして、明確な言語情報を用いずにコミュニケーションをとる文化のことです。このような文化では、あえてあいまいな言葉を用いて意思を伝える傾向があり、聞き手には「察する」という姿勢が求められ、わざわざ明確な言葉にして聞いたり書いたりすることは、むしろ敬遠される傾向があります。実は、世界で最もハイコンテクストなコミュニケーションをとる国、それが日本であると言われています。このようなハイコンテクストの文化において、コミュニケーションのうまい人とは、文脈に応じてあいまいなコミュニケーションの真意を察することのできる人を指し、かならずしも言語能力の高い人を指すわけではありません。逆に言えば、我々は言語能力自体を磨く必要性を、それほど感じてこなかったのです。
ところが、テレワーク下ではどうでしょうか。メンバーの表情、雰囲気、挙動といった非言語情報は、ほとんどカットされます。手掛かりとなる「文脈」の情報がとぼしくなってしまいます。そのうえであいまいな言語情報でコミュニケーションを行えば、行き違いや誤解といったミスコミュニケーションは必ず発生するでしょう。この点を考えれば、テレワーク下にある管理職が最も課題を感じるのが「部下とのコミュニケーション」である、というのも不思議ではありません(Adecco Group テレワーク導入企業の管理職500名を対象にした調査, 2018年7月)。コミュニケーションの形態という観点だけで考えれば、日本ほどテレワークの難しい国はないかもしれないのです。
テレワーク下の管理職に求められるコミュニケーション能力
したがって、テレワーク下の管理職には①ハイコンテクスト文化では求められてこなかった言語能力の習得 ②ローコンテクスト(=お互いの共通認識がほとんどないこと)を前提とした、積極的で明快なコミュニケーション、この2つのアクションが必要です。すなわち、察するのではなく明確な言葉で聞く、お互いに誤解がなくなるまで厳密に確認する、本来表情や態度で伝えていた感情も言語化して伝える、などです。一方で、同様の振る舞いを部下の方にも求める必要があります。察してもらうコミュニケーションになれている部下の方に対して、受け身のコミュニケーションはもはや機能しないこと、積極的な発信や報告を求めることを周知する必要があります。
ハイコンテクスト文化における「コンテクストの消失」という、大きなチャレンジに直面した日本の管理職のみなさんですが、この変化は悪いことばかりではないようです。たとえば、我々は非言語情報を重視しすぎるあまり、部下が忙しそうにしているだけで「よく仕事をしているな」と察して安心してしまう傾向があります。テレワークに非言語情報を封じられたことで、実質的な進捗管理を行う必要が生じ、逆に従来のマネジメントの盲点に気づかされた方もいるかもしれません。また、「メンバーに遠慮が発生して業務が遅滞したり、周りの目を気にして行動できないということがなくなった」などの声もきかれます。読むべき「空気」がなくなったことで、よくも悪くも各人が目的ベースの振る舞いをするしかなくなり、業務が効率化されたという指摘です。これもまた、テレワークの副次的効果と言えるでしょう。
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