人事担当に聞く!タレントマネジメントの実際
様々な人事課題に対して、なぜ、なにを、どのように行ったのか、
人事担当者にお話しを伺いました。
みずほフィナンシャルグループの人事運用改革
旧体制の人事から脱却し人事運営改革を進めるみずほフィナンシャルグループ。個を活かす人事運営を実現するため
タレントアセスメントをどのように活用したのか、タレントマネジメントの取り組みについてお話をうかがいました。※インタビューの内容は当時の担当者に取材を実施したものです。また、担当者の役職は取材時のものです。本インタビューは2020年7月に行いました。
上ノ山信宏 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ
取締役会室長
株式会社みずほフィナンシャルグループ
事業内容 | : | 銀行持株会社、銀行、証券専門会社、その他子会社の経営管理、その他銀行持株会社が営むことのできる業務 |
業種 | : | 金融業 |
従業員数 | : | 55,174名(2020年3月連結) |
インタビューの要約
様々な事業を持つ金融グループになっても旧体制の人事運営を継続しており、優秀人材の資質を踏まえた教育はできていなかった。経営・事業環境が変化する中、人事グループは危機感を強めた。
人の評価に科学的な手法を用いるべきと考え、管理職を除く社員2万人にアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を実施した。
評価者の客観評価スキルを高めるため、上司から部下へアセスメント結果フィードバックを実施。併せて管理職5000人に部下育成にOPQを活用するためのトレーニングを実施した。
この取り組みによって個を踏まえた部下育成の意識が管理職に芽生え、OPQを使った部下マネジメントのための勉強会も発足した。
組織風土を変えることがこの人事改革のゴール。組織風土改革は一朝一夕には実現できず、今後も続く課題。
このインタビューのテーマ
変化する経営環境に対して、旧体制時代の人事運営では
「勝てるわけがない」と単純に思った。
もともと当社は、大企業や海外を相手にするみずほコーポレート銀行と、リテールを中心とした旧みずほ銀行の、ツーバンクモデルでした。それが2013年に一緒になり、人材の採用と育成の観点で言うと、どうしても「何でもそつなくこなせる人材」を求める発想になっていました。その当時ですら、いろいろな事業が傘下にあって、求められる専門性や資質は全く違うはずだったのですが、判で押したように銀行の支店に配属して、そこから優秀な人材を振り分けていくという発想のままでした。人には向き不向きがありますので、営業店で優秀だった人が、すべての分野で活躍できるなんていうことはありません。結局、古い人事評価や人事運用をずっと引きずっていました。「これで勝てるわけがない」と単純に思いました。
もともと銀行は、人事のやり方に口を出しづらい雰囲気がありました。また、現場の管理職には部下の管理は行うが、人材の確保と育成は人事の責任と考え、人材マネジメントに積極的に取り組んでいるとはいいがたい人もいました。銀行は就職ランキングも高く、優秀な人材が十分に確保できていたという背景もありました。
金融業は一定水準の知能とガッツがあればできるビジネス、と昔は思われていましたが今やそうではなくなりました。競争相手も従来とは全く変わってきましたし、とても今のままの人事管理では立ち行かなくなったというのが実態です。
自然科学における「観察」のように、科学的に人を評価したい。
当時、常務と部長と副部長の私で今後の人材戦略をどうするかを議論していたとき、三人とも競争環境や専門性で他社が強くなってきているというのを肌で感じていました。
社員一人一人の持ち味や資質を把握し、強みを活かす能力開発を行う足掛かりとして、日本エス・エイチ・エルのOPQを資質診断ツールとして使うことを決め、みずほフィナンシャルグループ本体と子会社の従業員約2万人(管理職を除く)に実施しました。自然科学の世界は観察から、エンジニアリングの世界は計測から始まります。人事の基礎は評価だと思いますが、評価は認知バイアスの塊みたいなもので、みんな我流と思い込みで評価を行っています。そんな中で「個の重視」と言っても、らちが明かない。そこで、「人の評価に科学的な手法を用いるべき」と考えました。
日本エス・エイチ・エルを導入した個人的な理由は、私のOPQの結果をみたときに、「ああ、ばれてしまった」と思ったことです。結果を読めば読むほど自分のパーソナリティについて広く深い洞察がなされていることがわかり、「そうだよな」と深く納得しました。このツールは使えるという確信を得ましたね。
旧来の組織風土から、「個」を重視する新しい人事評価へ
変わっていくことの難しさ。
OPQを社員に受検してもらっただけではなく、フィードバック用のリポートを開発し、上司から部下へ結果のフィードバックを行いました。そのために、全管理職約5000名を対象に、OPQの解釈と活用のためのトレーニングを実施しました。
評価者の立場にあるものは、結果的に部下の人事権を持ちます。人事権は組織の戦略にそって行使されるべきものですから、評価者の主観や思い込みで評価することは本来なら許される行為ではありません。しかし、実際は明確な基準も根拠となる情報もないままに「あいつはこの職種はダメだけど、あの職種なら向く」などと言う運用も一部で行なわれていました。そんな中で、きちんと個人にフォーカスして何ができるのか、何ができていないのかを見極めなければならないと思いましたし、評価者は人を客観的に評価できる力を鍛えないといけないという問題意識を持ちました。
苦労したのは、新しい人事運営の方向感について納得感や共感を得ていくところです。「個を尊重する人事評価と言っているけど、本当は違うんじゃないか」という人もいました。このタレントマネジメント施策の導入後、私は異動で人事から離れたのですが、同僚から評価の時期になると「人事が言っていることを額面通りに受け取って良いのか?」と聞かれることもありました。人事制度や運用ルールを変更しても、組織風土を変えなければ人事改革は成功しない、と痛感しました。
今ではだいぶ浸透してきましたが、組織風土として新しい人事評価とその価値観を完全に浸透させるには、これからも現場の理解を促進するための地道な努力が重要だと感じています。
資質診断ツールを使って、部下を理解する勉強会が発足。
この取り組みで良かったことの一つとしては、ERG(エンプロイリソースグループ)※の取り組みの一環で、資質診断ツール(OPQ)を使った部下マネジメントの勉強会が発足したことです。「みずほウィメンズネットワーク」という女性従業員のグループで、会社が女性管理者を増やしていくなかで、管理職ならではの悩みについて話し合っています。このグループの立ち上げメンバーの一人が、資質診断ツール(OPQ)を使って、どのように部下を把握し、どのように部下と接するか、を学ぶ勉強会を始めました。女性管理職はロールモデルが少ないので、この勉強会で学び合っているんですね。この取組みは社内報で紹介されました。
数十人の部下を持つと一人ひとりの人となりを細やかに知ることが難しくなります。OPQは人となりを詳しく表現することに優れていますので、こんな問題を抱えている管理職にはうってつけのツールです。こうしたツールがないと、認知バイアスの影響で、「自分が見たい事実」だけを見てしまうようなことが、どうしても起きるので。
※エンプロイリソースグループ:共通の特性を持つ従業員同士が特有の問題についての話し合うためのグループ。ダイバーシティ施策として導入する企業が増えつつある。
日本エス・エイチ・エルのいいところは、学問的バックグラウンド。
日本エス・エイチ・エルのいいところは、皆さん勉強していて学問的バックグラウンドがしっかりしている専門家集団だということ。コンサルタントの中には、はっきりした根拠もなくそれらしいことを言う方もおられますが、日本エス・エイチ・エルの社員はきちんとした素地の上で、メリットばかりでなくデメリットも率直に話してくれます。そこが信頼できるところです。できないことはできないと言ってもらえるので、こちらも納得します。
みずほフィナンシャルグループの今後の取り組むべき重点人事課題は組織風土改革、指示待ちから自律への変化です。そのためには失敗を恐れず挑戦することが評価されるように変えなくてはいけない。誰に対しても率直に自分の考えを表明できる組織を作り、自分で考え率先して行動する人を増やしていきたいです。
担当コンサルタントから
清田茂
日本エス・エイチ・エル株式会社 取締役