【コラム】人事コンサルタントの視点
さまざまなタレントマネジメント課題に関して、
日本エス・エイチ・エルのHRコンサルタントがコラムを執筆しています。
クリエイティブな人材は不正を働きがち?クリエイティビティのダークサイドとその対処法
近年、新規事業創造人材など従来と異なるクリエイティブな発想を持つ人材に注目が集まっています。しかし、クリエイティブな人材とはどのような考え方を持つ人材なのでしょうか?今回は、今求められる能力として脚光を浴びる「クリエイティビティ」に関して、興味深い研究知見をご紹介します。
クリエイティブな人材は不正行為を働きがち
Gino & Ariely (2012)は「クリエイティビティのダークサイド(The dark side of creativity)」というタイトルの論文において、クリエイティビティの高い人材は、成果の誇張や嘘による報酬の割り増しなどの不正行為を行いやすいことを実証しました。さらに、職場をフィールドとした別の研究(Vincent & Kouchaki, 2016)では、本人が自身のクリエイティビティを稀有な才能であると強く自覚しているほど、成果の虚偽報告や会社サービスの私的利用などの不正をする傾向が強まりました。クリエイティビティのポジティブなイメージに逆行する研究結果ですが、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
クリエイティビティとは、ルールに縛られないこと
Gino & Wiltermuth (2014)は、クリエイティビティと不誠実な行動をつなぐのは「ルールに縛られないこと」であることを示しました。「自分はルールに縛られない」という認知が高まると、人はクリエイティブになり、かつ不誠実な行動も増えるのです。そのため、あえてズルをするような不正行為を行うと、その後の創造性課題の成績が高まるという効果も示されました。
つまり、クリエイティブな人材は程度の差はあれルールを破ることへの抵抗が少なく、常識を破ればイノベーションを、規則を破れば不正を起こすという構造が見えてきたのです。このような行動傾向によってクリエイティブな人材が組織の支持を得づらいことが、組織におけるイノベーションの阻害要因にもなっているのではないか、という指摘もあります(古川, 2018)。
感情知能がクリエイティビティの暴走を止める?
一方で、こうした「悪意あるクリエイティビティ」を抑止する要因について、興味深い知見がありました。Harris, et al. (2013) によれば、感情知能の低い人ほど、「悪意あるクリエイティビティ」によって課題を解決しようとする傾向があるそうです。感情知能がどのプロセスで「悪意あるクリエイティビティ」を抑止するのかは不明ですが(思いつかないのか、表現しないだけか)、周囲の人の感情を認識しづらい、もしくは軽視する傾向のある人ほど、クリエイティビティの悪用に注意が必要かもしれません。
最後に
古川(2016)の調査によれば、クリエイティブな人材は周囲との間に「壁や溝の認知(自分の考えは周囲に理解されないという思い)」を抱きやすいことが示されています。また、この壁や溝の認知を緩和するのは、「ともに見るもの(共有している大きな目標など)」の存在であるということです。クリエイティブな人材の活躍には、周囲の感情を理解し尊重しようとする姿勢とスキル、また様々な考えを持つ人材を包括する大きな目標が不可欠であるといえそうです。
なお、日本エス・エイチ・エルの万華鏡30には、新規事業創造などに適性のある「アントレプレナー適性」のポテンシャルとともに、感情知能の予測値も示されます。イノベーション人材の育成が急務となる中、このような視点で能力開発を考えてみるのもいかがでしょうか。
引用文献
古川久敬 (2016). 創造的アイディアの履行における抑制および促進要因の分析 ー創造革新性パラドックスの克服に向けてー. 日本経済大学大学院紀要, 4, 31.
古川久敬 (2018). 組織行動研究の展望: パラドックスを抱えた組織と個人を意識して. 組織科学, 52, 47.
Gino, F., & Ariely, D. (2012). The dark side of creativity: original thinkers can be more dishonest. Journal of personality and social psychology, 102, 445.
Gino, F., & Wiltermuth, S. S. (2014). Evil genius? How dishonesty can lead to greater creativity. Psychological science, 25, 973.
Harris, D. J., Reiter-Palmon, R., & Kaufman, J. C. (2013). The effect of emotional intelligence and task type on malevolent creativity. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 7, 237.
Vincent, L. C., & Kouchaki, M. (2016). Creative, rare, entitled, and dishonest: How commonality of creativity in one’s group decreases an individual’s entitlement and dishonesty. Academy of Management Journal, 59, 1451.
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