【コラム】人事コンサルタントの視点
さまざまなタレントマネジメント課題に関して、
日本エス・エイチ・エルのHRコンサルタントがコラムを執筆しています。
組織における女性リーダー育成
はじめに
近年日本政府や企業は女性の活躍推進に力を入れており、特に管理職層における女性の数を増やそうとしています。昨今話題となっているSDGsの目標でも「Gender Equality」が掲げられており、日本では「SDGsアクションプラン2020」として女性のエンパワーメントを3本柱の一つに据えています。今回は、女性リーダーのマインドセットにフォーカスし、組織における女性リーダー育成について考察します。
女性活用の現状
日本での管理職に占める女性の割合は令和元年10月1日時点で、部長相当職6.9%、課長相当職10.9%、係長相当職 17.1%となっており、先進国の中では最低水準です。政府が掲げていた「2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%に」という目標には遠く及ばず、「30年までの可能な限り早期に」と計画が先送りされました。現状は、リーダー層における女性活用が浸透しているとは言い難いです。
女性が指導的立場につくことが難しい背景には、様々な要因が複雑に絡み合っています。高い非正規雇用労働者の割合、都市部ではいまだ行き渡っていない保育の受け皿、妻が家庭内の労働の多くを引き受ける偏った家事育児労働、男性の育児休業取得率の低水準など、日本における社会構造、仕組み、ジェンダーロールといった様々な要素が女性のリーダーを生み出す障壁となっています。
参考:
(厚生労働省 プレスリリース「令和元年度雇用均等基本調査」結果を公表します)
(男女共同参画局 男女共同参画白書 平成30年版本編 > I > 第2章 > 第1節 就業をめぐる状況)
(厚生労働省 プレスリリース 令和元年 10 月時点の保育所等の待機児童数の状況について)
組織にとってなぜジェンダーダイバーシティが必要か
ジェンダーダイバーシティの経営上のメリットは、様々な調査から明らかになっています。マッキンゼーによれば経営陣のジェンダーダイバーシティの高い企業は、より高い収益性や価値創造性があります。ゴールドマンサックスは、欧米においてボードメンバーに女性が一人もいない企業のIPO支援を行わないことを表明しました。ボードメンバーに女性が一人以上いる企業のほうが業績が優れていることを理由の一つにあげています。単なる経済的メリットだけでなく、社会全体へ良い影響をもたらすから、とも語っています。組織における女性活用の推進は経営的な視点で多くのメリットがあると言えます。
参考:
(McKinsey&Company Delivering through Diversity)
(Goldman Sachs Goldman Sachs’ Commitment to Board Diversity)
能力不足ではなく自信の欠如
CEB のHigh Performance Survey(2012)によれば、初級レベルの従業員は男女ともパフォーマンスは同じであり、女性はパフォーマンスが悪いためにリーダーシップパイプラインから落ちているわけではありません。女性リーダーが生まれづらい要因の1つとして、能力不足ではなく自信の欠如が挙げられます。女性管理職は男性管理職と比べて自分の能力に自信を持っておらず、その結果より高いポジションを求める人が少ないと推測されます。Facebook COO、シェリル・サンドバーグは、著書「LEAN IN」の中で、女性が男性に比べて自分を過小評価したり、まだ起こっていない将来の懸念から、リーダーのポジションに就くことを敬遠する傾向があると述べています。また、昇進に二の足を踏み、キャリアにブレーキをかけることが、単なる個人の選択ではなく、社会的慣例・期待やステレオタイプ(強いリーダーシップを振るうのは「女性らしくない」、家庭と仕事の一方を選択するのであれば女性は家庭を選ぶべき、など)から多分に影響を受けているという重要な指摘もしています。
アセスメントで自分の強みを振り返る
あるメーカーで女性のハイポテンシャル人材を対象に、当社のパーソナリティ検査を用いた研修を行いました。研修では、アセスメントから自分の強み・弱みを把握し、「自分らしさ」を活かしたリーダー像を具体的にイメージできるよう支援を行いました。リーダーとして求められる要件はある程度共通していますが、多様なリーダー像があってしかるべきです。自分を客観的に振り返る機会を与え、活躍する女性が、現実的に自分が管理職になれると思えるような支援を行うことが重要です。アセスメントは、性差を問題にしていません。仕事上の行動特性にフォーカスします。「自分には無理だろう」と思う女性自身のバイアスを取り払い、自分の強みを活かしたリーダー像とマインドセットの構築の一助となるでしょう。
「彼女たちの課題」から「私たちの課題」として
今回は、あくまでも「女性リーダーのマインドセット」にフォーカスしましたが、転勤や時間外労働、上位管理職のロールモデル不足など、「マインドセット」だけでは解決されない課題が組織にはまだまだ存在します。パートナーがいればパートナーの職場環境も多分に影響します。また、冒頭述べた通り、大前提として様々な仕組み・制度、社会的に醸成された性役割によって活躍しづらい環境が依然としてあります。女性当事者に意識が向かいがちですが、「彼女たちの課題」と捉えることは本質的な問題を隠すだけでなく、活躍を阻むことに加担する危険性さえありえます。「マインドセット」は女性にだけ必要なのではありません。多様な組織を目指すのであれば、全社員が多様性を受け入れるマインドセットを持つべきです。ジェンダーに限らず、様々な多様性の問題は、マジョリティ/マイノリティの立場に関わらず、我々すべてが「私たちの問題」として当事者意識を持つことで、社会全体が良い方向に向かっていくと信じています。
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